理念と空想

--人間は観念を生み出すことができます。観念とは意識内容の集合体のようなものでしょう。問題はこのことに人間は自覚できるという点だと思います。意識はある。その集合体もある。だがその意識を集合体として意識するには言語と記憶が複雑に絡み合う必要がある。そのとき意識された観念は、現実の記憶それじたいではなく、言語化を経由した抽象的なものということが大きいと思います。ここから想像力が生まれ、虚構の世界へと遡行されるようになる。

--虚構の世界と現実の世界を等しく捉えることができるのは、この観念の世界を経由しつつも虚構を現実と同義に捉えることができる人の意識と想像の力の結晶に思えます。まさに人間だけが得ることができるものです。偉大な作家たちの虚構世界を、その虚構の存在を愛することは、とても人間的な叡智の発露といえるでしょう。

--とするならば虚構の世界とは何のためにあるのかという問いに対する答えは簡単に思えます。虚構のオリジンは観念です。観念は現実を抽象化したものです。抽象化されることで現実は一度、現実そのものの表象から乖離します。抽象化によって過酷な現実から一度乖離し、しかしそれはこの現実の写鏡であることで、われわれをもう一度、現実に戻すこと。それが虚構性世界の大きな意味、役割のように思います。