2024年1月のアルバム

①Blanket Swimming『Archway』(Somnimage)

この過酷な世界において生きるものの心を休ませる必要がある。アメリカの南部出身のアンビエント作家による霞んだアンビエンスに浸っていると、騒々しい世界から離脱し、音と音が織りなす静謐なサウンドスケープの時間の中につつまれるような感覚を得ることができた。環境音。アンビエンス。微かなざわめき。霧のような持続音。夜の、森の音。真夜中のアンビエント。1月、もっともよく摂取(?)した音響空間/アンビエント音楽だ。

 

②Ian Hawgood & Wil Bolton『Floral Forms and Subsequent Interactions』(Home Normal)

こちらは朝のアンビエント音楽とでもいうべきか。澄んだ空気の中に溶け込むような美しいサウンドスケープが麗しい。どうやら「自然の相互作用が私たちに与えるポジテイブな影響」をモジュラーシンセサイザーで表現したアルバムという。

 

③Quatuor Bozzini『Jürg Frey: String Quartet No. 4』(Collection QB)

昨年のEliane Radigueといい、Sarah Davachi『Long Gradus』といい、今、もっとも注目すべき現代音楽カルテットの新作は、かつてヴァンデルヴァイザー楽派作曲家とよばれたJürg Freyの弦楽四重奏曲。神経質な演奏と静謐な楽曲のコントラストが素晴らしい。

 

④Pyur『Lucid Anarchy』(Subtext Recordings)

ベルリン在住のアーティストによるこのアルバムは、自己の激しい崩壊と再生を、その複層的なサウンドテクスチャーのエモーショナルな生成の中で昇華しようとする。いわば分解と蘇生のエクスペリメンタル・ミュージックに思えた。

 

⑤David Wallraf『The Commune of Nightmares』(Karlrecords)

この資本主義下において捨て去られる数々の残骸を、多様なノイズ音響作品として蘇生させていくこのアーティストの新作は、聴き手の意識下にある不可思議な日常のスキマ=真の世界の姿を、騒音の世界で現出させてくれるかのようである。

 

⑥Reinhold Friedl & Martin Siewert『Lichtung』(Karlrecords)

ドイツの実験音楽弦楽集団Zeitkratzerの創設者Reinhold Friedlとウィーンのポスト音響派バンドのRadianのギタリストMartin Siewertのデュオ作品。硬質なノイズ/音響が生成・暴発するようなアルバム。音響研究のような一作。