2024年2月のアルバム

①Kali Malone『All Life Long』(Ideologic Organ)

All Life Long。一生を通じて探求すべきもの。それはすなわち「音楽」だろう。ここにあるのは真っ白な雪景色のような音楽。もしくは音の結晶のような音楽。カリ・マローンはパイプオルガンによるドローン作品でその名を知らしめたが、本作ではいわゆる「ドローン作家」の名から解き放たれ、まさに「作曲家」としての自身の力量をアルバム全編に渡って存分に展開している。声楽曲、管楽器曲、そしてお馴染みのオルガン曲はミニマムでありながら、「音楽であること」を全身で問うている。旋律と持続の関係だ。音とは何か。音楽とは何か。そして音楽が鳴っているこの人生とは何か。音楽家たちとの世界各国のコラボレーションによって録音・完成したこのアルバムは、はやくも2024年における重要なアルバムのひとつとなった。

 

②Ian Wellman『The Night the Stars Fell』(Ash International)

雪の夜、澄んだ空気の星空のようなサウンド。アルバム名どおり実にロマンティックなアンビエントである。環境音までも真夜中の星屑のように響く。雪の結晶のようなドローンは心を深く沈静させてくれる。Room40からリリースしてきたアルバムもどれも秀逸な出来栄えだったが、このアルバムこそ彼の現時点での最高傑作ではないかと勝手に思った。

 

③Eva-Maria Houben & John Hudak『Paloma Wind』(LINE)

〈LINE〉からリリースされたヴァンデルヴァイザー派の作曲家/オルガン奏者であるEva-Maria Houbenと、ウルトラミニマムな音響排人とでもいうべき米国のサウンドアーティスト John Hudakのコラボレーション・意外といえば意外な共作だが、音の方も双方のイメージから異なり、奥深く世界の只中に溶け込んでいくような環境音+ミニマルな音響世界を展開している。聴き込むほどに音世界の豊穣さに驚く。

 

④Rafael Toral『Spectral Evolution』(Drag City/Moikai)

ポルトガルのベテラン音響ギタリストのあまりにも素晴らしい新作。音の向こうに森があり、夏があり、気候があり、世界がある。40分の長尺サウンドスケープは音による/音楽におけるイマジネティヴな世界を生成・展開する。もしかすると長い彼の活動歴の中もでエポックな傑作といえるのではないか。どこかフェネスの『エンドレス・サマー』の音世界への親近性も感じてしまった。まさに現代の音響派、電子音響。

 

David Grubbs & Liam Keenan『Your Music Encountered in a Dream』(Room40)

デヴィッド・グラブスとリアム・キーナンのギター・デュオ・アルバム。乾いたギターの響きと、叙情的な音楽・音響世界にあのシカゴ音響派の残響が聴こえてくる。点描から持続へ。持続から響きへ。即興と再構成。ここに鳴っている音こそ真の音響派といえるのかもしれない。90年代から20年代へ。

 

British Museum『Satan Is a Roof Over My Head』(The Trilogy Tapes)

ローファイ・エクスペリメンタル・テクノとでもいうべきか。いわば謎に満ちた音。もしくは匿名性のむこうにある霞んだ音のうごめき。簡素な音とダークなムードがたまらない。ポストパンクからダブ、テクノからドローンなど、この40年ほどの電子音楽レフトフィールドで展開されたスタイルをしかし、簡素な音とダークなムードで、どこか心なく再構築していく。不穏と無に満ちた不可思議な電子音の魅力がここにある。クール。